産後のしんどさの理由は?
(お子さん3歳・4か月のママ)
丸山桂里奈さん(MC) かわいいと思う回数が違うということは、ゆとりが出てきている感じですね。
体力が回復していない状態で子育てを始めているママが多い
明和政子さん とてもよくわかります。 私も初めての出産後は、立ち上がるのもしんどいぐらいでした。 実際に調べてみると、日本人の産後女性の半分は、高齢者でいうサルコペニア(加齢による筋肉量の減少、筋力の低下)の基準を満たしてしまっています。それぐらい筋力が落ちているわけです。出産後に体力が回復していない状態で子育てを始めているママが多いのです。それはつらいですよね。
ヒトとチンパンジーの子育ての違いとは?
明和さんは、元々チンパンジーの研究をしていました。自分自身が子どもを授かって以降、ヒトとチンパンジーの子育ての違いに大きく驚き、両者を比較しながら、ヒト特有の心・脳の発達を研究してきました。
チンパンジーは人間にとても近い動物だというイメージがあります。実際にDNA、遺伝子の塩基配列は98.8%が同じです。ほぼ同じように感じますが、違うところがたくさんあります。そのひとつが、子育てのしかたです。
チンパンジーは産んだ後も、基本的に母親1匹でゆっくりと子どもを育てあげます。子どもが集団の仲間と過ごす時間が多くなり、自立し始めると、母親の体にようやく排卵が起こります。そのため、出産間隔は6~8年ほどです。
一方、ヒトは子どもが自立するまでに長期間かかるにも関わらず、産後1~2年で再び出産できるようになります。
チンパンジーには体毛があります。子どもは握力が強いので、生まれてすぐに母親の体毛にしがみつけます。そのため、母親は子育て中でも両手を使えて、比較的自由に行動できます。
それに対し、ヒトの赤ちゃんは誰かに抱きかかえられなければ生存していくことができません。
こうしたことからも、チンパンジーは基本的に母親だけで子育てできる動物なのに対し、ヒトは母親だけでは子育てできません。
その代わり、ヒトは進化の過程で手に入れたものがあります。私たちヒトという生物は、「共同養育」という形態の中で連綿と命をつないできたと考えられているのです。
―― 共同養育とはなんですか?
母親が所属する集団で協力しながら子育てするのが共同養育
回答:明和政子さん ニホンザルやチンパンジーは、母親が1人で出産し子育てします。それに対してヒトは、母親が出産し、その母親が所属する集団で協力し合いながら子育てします。そうすると、子どもたちが生存できる確率が高まるのです。ヒトが進化の中で獲得した生存戦略ですね。母親のみに負担が集中するような子育ては、ヒトには不自然だと考えられます。
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丸山桂里奈さん(MC) 「チンパンジーは母親だけで子育てしているから、ヒトにもできる」と言われそうですが、それは違うのですね。
明和政子さん チンパンジーはチンパンジーらしく、ヒトはヒトらしく生きます。それぞれの進化のありかたに優劣はありません。
―― 人間は本来、周囲の支えがあって初めて子育てできるのでしょうか?
コミュニティーで育てる時代が長かった
回答:明和政子さん コミュニティーで育てる時代が長かったのだと思います。ところが戦後に核家族化が進み、子育ては家庭の中で、特に母親の役割だという時代が何十年か続きました。これが当たり前になってしまったことが問題ではないかと考えられます。
「親や家族が育児する」という考えが広がり、「みんなで子育てする」感覚が薄れてしまった
回答:鈴木八朗さん 父親が育児参加するなど、家族の時間をつくるのはとてもいいことです。一方で「親や家族が育児する」という考えが広がり、「みんなで子育てする」感覚が薄れてしまいました。子どもがいろいろな人たちと出会う可能性が少なくなっていると強く感じています。
りんたろー。さん(MC) 母親の育児に父親が加わったことで、「もう十分」みたいな空気が出ているのでしょうか?
今の時代に合った「共同養育」をつくり出していく
回答:鈴木八朗さん そうかもしれません。それはおかしいという前提のもとで、保育園のような公共施設が、今の時代に合った共同養育をつくり出していかないとと強く感じています。![]()
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