アウェイ育児、どう乗り越える?

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2023/12/02

出典:すくすく子育て[放送日]2023/12/02[再放送]2023/12/07

アウェイ育児の大変さをどう乗り越えたのか、あるママの体験談を紹介します。

6年前、故郷を離れて夫の転勤先へ引っ越して、私もそこで就職しました。新しいことにチャレンジする気持ちで、平日は仕事、休日は夫婦で旅行と、アウェイ感なく生活を楽しんでいました。
4年ほどで妊娠し、里帰り出産をして2か月ほどゆっくり過ごしました。しかし実家から戻ると、急に故郷を離れている「アウェイ感」を感じるようになりました。身内も友だちもいない、SOSを出しても駆けつけてくれる人がいなくて孤独を感じていました。



そんな孤独から抜け出すきっかけは、3か月健診の案内に添えられていた「ブックスタート」の引換券でした。子育てひろばに持って行くと、本が無料でもらえるのです。それまで、「子育てひろばは地域のもの、よそ者の私は…」という気持ちがあったのですが、迷いながらも「無料で本がもらえるなら」と、おそるおそる子育てひろばに出かけました。



そこで出会ったのは、同じ月齢の子どもがいるママ達と、ママとの話をつないでくれる広場のスタッフでした。スタッフに「よかったら、この機会に連絡先を交換しちゃいなよ」と言われて、そこからママ友ができたんです。広場のスタッフはやさしくて話しやすくて、悩みごとを気軽に相談でき、気持ちが楽になりました。



今では、第2の実家のようにリラックスして、広場での交流を楽しんでいます。スタッフが見守ってくれていると感じて、地域に溶け込めているように思いました。顔見知りができるのが、とてもよかったです。
今後、夫の転勤でこの地域を離れる可能性もありますが、この経験を生かして新しいところでもつながりが作れると思うと、少し不安が減り、子育てを楽しめる気がしています。
(お子さん1歳のママ)
古坂大魔王さん(MC)

ブックスタートのように、地域の人たちとつながるきっかけになる取り組みはすばらしいですね。
木下ゆーきさん

「絵本をもらえる」といっても、実際に行くのは大変ですよね。そこを乗り越えたママはすごいなと思います。

子育てひろばのスタッフは親の孤独や不安を理解している

大日向雅美さん

里帰り出産ではみんなに守ってもらい安心していたのに、戻ったら「私はよそ者、誰も見てくれない」と感じるのは、天国から地獄に落ちたようなつらさがあったと思います。そんな中、1歩踏み出して、子育てひろばに行くことができてよかったですね。全国にはたくさんの子育てひろばがあり、スタッフはこのような親の孤独や不安を理解して、何とかなじんでもらおうと声をかけていると思います。

次に、仕事に復帰したことでアウェイ感を乗り越えられたというママの体験談を紹介します。

1人目の子どもが生まれとき、アウェイ育児の孤独感に苦しみました。結婚前は地元で、結婚後は地元に近い市で暮らしていました。1人目の子どもの妊娠がわかったとき、夫の転職で県内の別の市へ引っ越すことになりました。実家からも、職場からも遠い場所で、私は退職するしかありませんでした。働いていたい気持ちがあったので、自分の中の何かがなくなったような、寂しい気持ちでした。

里帰り出産して、産後2か月で実家から泣きながら戻りました。退職、新しい土地での生活、初めての育児、いろんなことが重なって落ち込んで。社会人としての役割から切り離され、近くにいた友人とも切り離され、孤立感が大きく、一時は流れる川に飛び込んでしまいそうなほど思い詰めていました。

でも、落ち込んでいてはいけないと、産後3か月を過ぎたころから子育てひろばなどへ出かけ始めました。子どもと2人きりではない空間にいることで、少しずつ「次はこれをしてみたい」といった意欲が出てきました。さらに気持ちを変えたのが、以前の職場からの復職の誘いでした。「忘れられていない、誰かに必要とされている」と感じて、とてもうれしかったです。

復職し、子どもが2歳になったころ、私の職場と夫の職場の中間地点に引っ越しました。夫婦ともに地理的にはアウェイですが、以前に比べて気持ちに変化があります。母親としての居場所だけではなく、社会人としての居場所ができたことで、「ホームができた」と思えて、アウェイ感が薄まりました。子どもが保育園に入ったことで、新しいつながりが増えたこともあります。
(お子さん4歳3か月・9か月のママ)
木下ゆーきさん

仕事を続けたいのに辞めないといけない状況になり、「親だから、そうして当たり前」と思われてしまうことはつらいですよね。
古坂大魔王さん(MC)

「なんでつらいの?」「自分で選んだんでしょ?」と思われてしまうようなこともありますよね。

女性の人生を子育てで空白にしてはいけない

大日向雅美さん

川のそばを歩いて吸い込まれそうなぐらいつらいのは、社会から切り離されたからだと思います。本当に胸が痛みます。その後、「母親としての自分」「社会人としての自分」があり、誰かの役に立ち、必要とされていることを実感できてよかったと思います。
特に母親になった女性は、「子どもがあなたを必要としている」のひと言で、「仕事を辞めても当たり前、そんなことで寂しいのはおかしい」と言われてしまう。男性は転勤があってもキャリアが続いて、女性はキャリアを捨てて人生がカットされているのに「子育てに専念できていいでしょ?」と言われるわけです。この考え方は本当に変えてほしい。女性の人生を子育てで空白にしてはいけません。
鈴木あきえさん(MC)

共働き世帯が多くなったとはいえ、妊娠、出産、パパの転勤などでママが仕事を辞めざるをえないケースは、まだまだ多いですよね。
木下ゆーきさん

子どもにとっては住んでいる場所がホームになるからこそ、悩む部分があると思います。私の場合は、子どもたちの順応力はすごくて、移り住んだ場所を本当によろこんでいます。今いる環境を子どもにとってどれだけよく、楽しくしてあげられるかが大切だと思って、私なりに頑張っています。

ホームにする方法を家族で話し合う

大日向雅美さん

子どもにとっては、どこでもホームになりえますよね。大人は、子どものようにやわらかい心で生きることがなかなか難しいこともあります。だからこそ、ときには子どもから学んで、家族で「どうすれば私たちにとってもここがホームになるか」と話し合えたらいいですね。


―― すくすくファミリーのみなさんは、アウェイ育児をどう乗り越えましたか?

町内会に参加する

私は、地元の人間としてお祭りなどに参加したくて、町内会に入れてもらいました。子どものころ、地元の町内会のイベントや、町内の人との関わりにとてもいい印象を持っていたんです。新しい場所でも地元の人間として関わりたい、子どもにも同じような体験をさせてあげたいと思ったのが理由です。
町内会に入ったことで、回覧板などで今まで知らなかった町内の情報を知ることができます。また、周りの人たちが子どもの成長を気にかけてくれるなど、アットホームなあたたかさを感じています。
(すくすくファミリー)

声をかけられた経験を大事に、次へつなげる

以前に住んでいたマンションで、子どもと一緒にエレベーターを待っていたら、同じマンションのママから「何か月? 連絡先教えて~」と初対面で言われました。驚いて、はじめは何かの勧誘かと思いましたが、そのママは同じように声をかけた他の子育て家族とメッセージグループを作っていました。



そこでは「明日遠足だけどお米がない、誰かお米1合ください!」「今から公園で遊ぶけど一緒に行く人いますか?」など、気軽に声をかけ合って助け合う関係が築かれていました。私の警戒心も少しずつ薄れて、家族ぐるみで食事をするほど仲よしになり、アウェイ育児のつらさは解消されたんです。
その後、新たな場所に引っ越したのですが、この経験から「今度は私がほかのママを助けよう」と考えるようになりました。同じマンションの方に、挨拶をしたり、「赤ちゃん、月齢何か月ですか?」と話しかけたり、初対面では無理だけど「連絡先を交換しましょう」と言えるようにもなりました。
(すくすくファミリー)
鈴木あきえさん(MC)

すばらしいですね。「してもらった側」から「する側」になって活動しているのですね。
木下ゆーきさん

言葉を介して知り合いになることは、とても大事だと思っています。意識して、あいさつするように心がけているんです。息子もそれを見て育っているので、「こんにちは」とあいさつしながら歩くようになりました。あいさつから会話が生まれると思っています。

今のママたちは、いろいろなものを使いこなす力と感性がある

大日向雅美さん

町内会に気づいたのは「アウェイ育児」という思いがあったからかもしれません。地域にはいろいろな宝がありますが、気づかなかったり、敬遠して素通りしたりしてしまいがちですよね。「町内会は面倒」という意見があるように、人間関係にはよいことばかりではありません。「縛られる」「懐柔される」という思いがあるかもしれない。でも、見守ってもらえるなど、よい面もあります。その両方を上手に対処していると感じました。
また、自分がされてうれしかったことを、お互い様の恩返しで今度は自分がする。そんな循環ができていましたね。今のママたちは、いろいろなものを使いこなす力と感性があると思います。

アウェイ育児のつらさを支え合う取り組み

埼玉県熊谷市の地域子育て支援拠点「0・1・2・3さい くまっぺ広場」では、アウェイ育児のつらさを仲間で支え合おうという取り組みをしています。

熊谷市地域子育て支援拠点
熊谷市地域子育て支援拠点「0・1・2・3さい くまっぺ広場」

この広場に集まっているのは、地域に住む3歳までの子どもを育てている親たちです。話を聞いていると、「すごい早いな、痛ないの」「めっちゃ痛いねんけどこれ」と関西弁が飛び交っています。

このグループは、関西出身の親だけが集まるサークル「子育てサークル・バンビ」なんです。関東でのアウェイ育児の不安を解消しようと、NPOが運営する子育てひろばのサポートを受けて9年前に作られました。

大﨑幸恵さん(NPO法人子育てネットくまがや 代表理事)

子どもを持ってはじめて「この町で私が暮らす」という実感が生まれるように思います。そのとき、「情報がない」「知り合いがいない」と考えるようになるのではないかと思います。

活動は月に1回、平日の午前中に行います。熊谷市近辺在住の、0~3歳までの子どもがいる関西出身の親なら誰でも参加できます。

参加者からは「人としゃべるのは、やっぱりすごく大事」「関西弁でしゃべれること自体がうれしい」といった声が聞けました。広場での集いのほか、お花見や食事会など、家族ぐるみで参加できる活動も行い、交流の輪を広げています。

サークル代表者

私がサークルに入ったときに、とてもあたたかく受け入れてもらいました。いろんな人が話しかけてくれて、すごくうれしかった。だから同じようにしてあげたいなと思っています。

このサークルでの経験を生かし、今では支援者となって広場で親子を支えるようになったママもいます。

当事者でないとわからない不安や孤独感をわかってあげられると思ったそうです。

この活動が原動力となり、2021年には出身地域を問わないアウェイ育児のサークルも誕生しました。
同じ立場の仲間がいれば、見知らぬ土地、アウェイでの子育てでも、新たな「ホーム」にすることができるのですね。


アウェイ育児は、なぜ大変?

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