きつめの言葉で子どもを責めるのは虐待になるの?

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2023/11/04

出典:すくすく子育て[放送日]2023/11/04[再放送]2023/11/09

続いて、子どもを言葉で責めてしまい悩んでいるというママの体験談です。

2人目が生まれて半年後、そのとき3歳になる上の子に対して、きつい言葉を使うようになりました。それまでは一切なかったのに、なかなか言うことを聞かないときにイライラが止まらず、「どうして意地悪なことするの」「そんな悪い子だと思わなかった」など、罪悪感を抱きながら、ダメだとわかっている言葉でどなっていました。子どもは怒らない夫にべったりになり、自分が原因だと落ち込みました。
母や夫に相談したこともあります。最初は、ひどいことをしている自覚から、なかなか打ち明けられませんでした。軽蔑されるかもしれないと思ったんです。でも、勇気を出して相談したら、大変さ、しんどさを理解してくれて、思った以上に味方になってもらえました。パパの仕事柄、ワンオペになることも多いのですが、もともと家にいるときは全力で子どもに関わっています。相談してからは、私がイライラしていると声をかけてくれるようになりました。
その後、自治体の支援センターの相談会に参加して、精神科医や心理士の方に話を聞いてもらい、今は少し落ち着いています。参加する前は「このお母さんは病んでいるんだ」と思われることに抵抗があったのですが、「このままではいけない」という思いのほうが強くて相談できたと思います。
(お子さん4歳7か月・2歳3か月・8か月のママ)
古坂大魔王さん(MC)

子どもを言葉で責めてしまうと、罪悪感が出てくると思います。相当イライラしていると、思っていることの2~3倍の言葉になってしまうのではないでしょうか。
鈴木あきえさん(MC)

私も、話しながらも、後悔がはじまるようなときがあります。心の中で「この言葉、言わないで!」と言い聞かせても、言ってしまって。言わないではいられない自分もいます。


―― 大日向さん、きつい言葉も虐待になるのでしょうか。

「心理的虐待」になりえるが、見えづらい。虐待には3つのレベルがある

回答:大日向雅美さん

一般的に、虐待は4種類あります。「身体的虐待」と「性的虐待」。無視をする、必要な世話をしないなどの「ネグレクト」。そして、「心理的虐待」です。言葉できついことを言ったり、きょうだいの1人だけを溺愛して対照的に無視したりするもので、なかなか見えづらいのです。
また、私たちはあまり程度を考えずに「虐待」と言いますが、虐待には3つのレベルがあります。それを「マルトリートメント」といいます。

マルトリートメントとは

解説:大日向雅美さん

マルトリートメント
※文部科学省「養護教諭のための児童虐待対応の手引」より

「マルトリートメント」とは、「大人の子どもへの不適切なかかわり」を意味する言葉で、より広く児童虐待をとらえる概念です。
「レッドゾーン(要保護)」は、子どもの命や安全を守るため児童相談所などが強制的に介入して親子を分離するレベルです。
「イエローゾーン(要支援)」は、問題をさらに悪化させないために、さまざまな支援機関や専門家が連携して支える必要があるレベルです。
「グレーゾーン(要観察)」は、場合によって地域の支援機関などが見守ることが必要なレベルで、誰しもが陥りやすいゾーンです。

苦しいときは、「虐待」というより「不適切な関わり方」と考える

大日向雅美さん

たたいたりきついことを言ったりして子どもがおびえたとき、その姿に快感を覚えていたら危ない状態です。でも、ほとんどの親は「どんなにつらくても手をあげるのはよくない」「言葉できついことを言うのはよくない」とわかっていて、苦しんでいると思います。それは快感ではありません。私は、それを「虐待」という言葉でくくるのは、親がかわいそうだと思います。虐待というよりも「不適切な関わり方」と考えていきたいと思っています。

親の感情の豊かさを否定することではない

大日向雅美さん

子どもをおびえさせるほど大きな声を上げたり、たたいたりするのは、たしかにいけないことです。ただ、私たちには感情が、喜怒哀楽があります。その感情に触れた子どもが、「震えるほど怒っているのは、自分がいけないことをしたからだろう」「〇〇をしちゃだめと、こんなになるほど私を守ろうとしてくれた」と感じることもあります。そういった感情の豊かさを、全て否定することではないと思います。

自分は「虐待した」ではなく、「グレーゾーンなんだ、立ち直ろうとしている」と考えて

大日向雅美さん

体験談の方は、夫や母に、本当によく打ち明けられたと思います。そして支援センターにまで行かれた。このとき、「私は虐待したんだ」と思っていると、なかなか一歩が踏み出せません。だから、「私はグレーゾーンなんだ、立ち直ろうとしているんだ」と、自分に言い聞かせてほしいのです。とても大事なことです。それから周りの人たちや、専門機関のドアをノックしてみてください。打ち明けた相手が、みんな「本当に大変ね」と言うとは限らないかもしれない。でも、今の時代は「そんな親は鬼だ」と言う人のほうが少ないでしょう。実際に、すくすくファミリーのみなさんは、体験談に涙を流し、共感していました。時代はそういう方向に向かっていると思います。

育児のイライラなどで悩んだときの相談窓口


―― 大日向さんの話を聞いて、いかがでしたか?

体験談のママ

ありがとうございます、感極まってしまいました。ずっと罪悪感がありましたが、自分がしたことはよくなかったけど、追い詰められて起こってしまった「不適切な対応」だったと考えて、これからに生かしていくことが大事だと、前向きに気持ちを切り替えることができました。


―― 今、何か工夫されていることはありますか?

体験談のママ

イライラしたときの状況や思ったことを、日付と一緒に記録しています。自分は、何がつらくて、どうすれば楽になるのか、ノートに書いて整理しようと思ったことがきっかけでした。ときどき見返すと傾向がわかってくることがあります。

イライラしているときこそ自分を客観視する

大日向雅美さん

イライラしているときは、自分が見えなくなりますよね。そんなときこそ、自分を客観視することが大事です。客観的になることで、クールダウンすることもあります。ある方は、自分がどなっているときに録音して、あとで聞いていたそうです。「こんなに耳を覆いたくなるようなことを子どもが聞いているんだ」と、見つめ直すことができたといいます。
自分を見つめる工夫は大事ですよね。繰り返さないための、すばらしい工夫だと思います。


―― ほかに聞きたいことはありますか?

体験談のママ

カッとなってしまったときの対処で「その場を離れる」「6秒数える」と聞いたことがあります。でも、私はあまり冷静になれず、うまく気持ちを切り替えることができませんでした。怒りをコントロールする方法があれば聞きたいです。

すくすくファミリー

〇怒ったその瞬間は難しいので、睡眠が大事だと思います。
〇私も「6秒待つ」ができない性格です。最近は、台所に移動して、冷たい水を1杯飲んで、次の家族行事のこと・たのしいことを考えていると落ち着きます。
〇突然子どもたちに痛いことをされると、わざとじゃなくても、「痛いでしょ!」と怒ってしまいますね。そんなときは、ひとことで叱って、「じゃ、ちょっとトイレにいくから」と言ってトイレにこもります。
〇イライラしているときほど笑顔をつくって、「大丈夫!」「ま、いっか!」と落ち着く言葉を唱えています。少し怒りがおさまります。

社会で子育てを変えていかないといけない

大日向雅美さん

怒りをコントロールする方法は、人それぞれに向き・不向きがあり、正解はありません。一方で、「そもそも、なぜ育児にイライラするの?」という根源的なことを考えることも大事だと思います。戦後の高度経済成長期以降、ママは家事・育児、パパは仕事という、性別役割分業が続いていました。でも、それ以前の主な産業が農業や漁業のときは、村落共同体のみんなで働き、みんなで子どもに目をかけ、手をかけていました。今のような状況は、人類のあり方として本当に異常で、苦しいと思います。こんなに罪悪感で自分を責めている親がいると知ったら、社会のみんなが「ごめんなさい」と言うべきなのです。あなたが罪悪感を持つことではない、社会がこの異常な子育てを変えないといけないと思います。

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