「育児は仕事の役に立つ」そんな研究があるのを知っていますか?【ママが働くを考える】前編

クリップ
クリップ

すくコムが実施した「ママの就労」に関するアンケートでは、未就学児をもつ専業主婦のうち90%が、これから先「働くこと」を希望しているとわかりました。

アンケート結果をまとめた記事はこちら。
 

専業主婦ママの90%が将来的に働きたい・・・だけど自信がない
〜「ママの就労」に関するアンケート結果より〜

一見、前向きな結果に感じられるこの数字。しかし、働きたいと答える一方で、ほとんどのママたちが不安を抱え、「働けるのかな…ムリかな…」と揺らいでいることも自由記述(FA)の回答から見えてきました。

ママが働くことを、どうしたら前向きな選択にできるだろう?

今回のアンケート結果とともに、専門家にそんな思いをぶつけてみました。

【お話を伺った専門家】 中原 淳(なかはら・じゅん)さん
中原 淳(なかはら・じゅん)さんプロフィール写真
東京大学 大学総合教育研究センター准教授。

1975年北海道生まれ。会社勤めの妻とともに2人の男の子(小学生・保育園児)を育てる研究者パパ。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材育成について研究している。
大学院での指導学生の浜屋祐子さんとの共著『育児は仕事の役に立つ』では、育児経験が仕事に与える影響について、浜屋さんが行った研究データに基づいて解説している。

育児は仕事の役に立つ!ママ人材に企業は期待しています

– アンケートでは、不安なことの第一位が「収入、時間が自分の都合に合う職場が見つけられるかどうか」でした。
短時間でも働けるか、子どもの発熱時に休めるか…など、育児中ならではの不安が強い印象だったのですが、実際に雇用の現場は難しいものですか?

みなさんの回答を拝見しました。

「見つけられるかどうか」の不安はもしかすると、「なんか自信がもてないな」とか「ずいぶん仕事から離れていたから気後れするな」といった心境が影響しているのかなと感じたのですが、求人があるかという点で考えれば「大丈夫、見つかります」とはっきり言えます。
 
日本は今、世界で最も仕事を探しやすい国です。理由は有効求人倍率(求職者数に対する求人数の割合)の高さ。背景には、労働人口不足と長期の景気回復があります。【2018年1月15日取材時点】
 
今後も労働人口は不足し続け、7年後の2025年には583万人足りなくなると予測されています。(※1)
企業は人が足りなくて本当に困っていて、1日2〜3時間という隙間時間でも働ける人を求めるところも増えてきています。
 
とくに子育てで仕事を離れたママというのは、社会経験もあり、きっちりと仕事に責任を持てる人が多いため、企業も期待している層です。ですから、これから先ママたちが仕事を見つけやすい状況になっていくことにぜひ希望をもってください。
 
一方で、その希望の芽を摘まないために、国は本当に真剣に、目の前の「待機児童問題」や「長時間労働問題」に取り組まなければなりません。これは「待ったなし」です。

– 先ほど中原さんの話にあったように、仕事から離れたブランクを気にして不安に思うママも多くいらっしゃいました。やはりブランクがあると不利でしょうか?

人間はブランクがあると「自分に本当に仕事ができるかな」と自信を持てない傾向にあります。
とりわけ、一般に女性は「インポスター症候群」とよばれるのですが、自分の能力やスキルに自信が持てず、本来の能力よりも自己評価を下げる傾向があると言われています。
また、ブランクのせいで再適応に時間がかかるというデメリットも実際にあります。
では、子育てをしていた期間が仕事をするにあたって、マイナスでしかないと思いますか?それはまったく違います。
 
たしかにひと昔前までは、ワーク(仕事)とライフ(子育てなど)は「ワーク・ライフ・コンフリクト(対立、争いなどの意味)」とされて、互いによくない影響を与え合うものだとされてきました。
仕事を頑張れば育児にネガティブに響くし、育児を頑張れば仕事がダメになると思われていたんです。

 

― 仕事と育児を両立することは、よくないイメージだったのですね。

でも今は「ワーク・ライフ・エンリッチメント(豊かにすること)」の方向に研究も変わってきていて、ワークとライフは決して対立するものではなく、好影響を与え合い、お互いを豊かにしていくものだと捉え直されています。
 
共著『育児は仕事の役に立つ』では大学院での指導学生の浜屋祐子さんが「育児の経験がどのように仕事力につながるのか」を研究しました。
まわりの人を巻き込み、協調しながら切り盛りする「育児」は、リーダーシップを鍛え、困難な局面でもめげずに前へ進んでいく強さ(タフネス)が身につくなど、さまざまな能力向上に影響を与えているんですよ。
 
雇用側にも変化が見えます。ブランクを経て採用したアルバイトやパート社員に対して、OJT(実際の業務を通して行うトレーニング)の指導員を付け、自信をもって仕事をこなせるようになるまできちんとサポートするところが増えています。
そのような体制があるかどうか、仕事を探す際に調べてみると安心ですね。

母親が働いているかいないかで、子どもの発達に差はない

家族

― アンケートでは、子どもへの影響を不安視する声も多かったです。ママと一緒にいないと子どもの心が健やかに育たないんじゃないか…と。

ママ自身が、「母親が働く」ということによいイメージをもてないんですね。母親が少しでも仕事をすれば=手抜き子育てと同期して考えてしまう風潮が社会に根強くあるからでしょう。
「3才までは母親の手で」という考えは高度経済成長期の男性の働き方にマッチしたことで定着しましたが、いちどそこから抜け出さないと、ママたちの葛藤は今後も続く可能性があります。
 
研究者としてひとつはっきり言えるのは、母親が働いているかいないかで、子どもの発達に差は認められないことを支持する研究が多いということです。(※2)

 

― 中原さんが本で書かれていた「うちはチルドレンファーストではなくファミリーファーストで」という考えが、すごく印象深かったです。

「子どもを大切にすること」と「全てを子ども最優先にすること」は、必ずしもイコールではないと僕は思っています。
「子どものために」と子どもを最優先にしたことで親がストレスや苦労を抱えれば、それは子どもに伝わります。
 
それよりも、家族みんなが幸せに生きられる落としどころを見つけるのがいいんじゃないかと思うのです。
わが家では子どもが生まれたときに「ファミリーファーストでいこう」と妻に提案しました。親とはいえ、子どものためならどんな苦労もいとわない、ストレスにならないというほど強くない。僕もちっちゃい人間ですから(笑)

 

― 夫が育児や家事に協力的でないので自分が働くのはムリ。あるいは、子どもを預けて働くことを夫がよく思わないという回答も多く寄せられました。

パパの家事・育児モンダイについては次回触れますが、ひとつ知っておいてほしいのは、母親だけでなく父親も一緒に育児に参加するほうが、子どもの発達にとって断然プラスになるということ。これはもう、随所でデータ化されている事実です。
 
「男性は外で仕事、女性は育児と家事」ではなく、パパとママがともに協力して子育てすることこそが、子どものためであることを、ぜひ知ってほしいですね。

 
いかがでしたか?子どもにとっても、ママ1人だけが関わるよりも、パパやまわりの人を巻き込んで、みんなで子育てするのが良いのですね!

次回後編では “ママが働くことをポジティブなイメージに変える” 中原さんのお話の続きをお届けします。どうぞご期待ください。

(2018年1月15日取材)

次の記事はこちらです。ぜひ併せてご覧ください。
 

"子どものために" 働くことをためらわなくていい3つの理由
【ママが働くを考える】後編

(※1) パーソル総合研究所「労働市場の未来推計」
http://rc.persol-group.co.jp/roudou2025/

(※2) 母親が育児を全面的に引き受けた場合と、そうでない場合の子どもの発達には有意な違いはない
The NICHJ Early Child Care Research Network(2005) Child Care and Child Development Guilford
Goldberg, W. et al (2008) Matenal employment and Children’s achievement in context. Psychological Bulletun pp77-108

PR

×     閉じる